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高齢者は肉をたくさん食べたほうがいいの?

2025.04.16|高齢者たんぱく質摂食・嚥下障害

「高齢者は肉を積極的に食べたほうがよい」——そんな話を、テレビの健康番組やニュースなどで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。この考え方のきっかけとなったのは、1990年代に行われたある栄養学の調査です。

この調査では、日本に住む百歳以上の高齢者が、一般の日本人に比べて動物性たんぱく質の摂取量が多いことが注目されました。当時は「高齢者には和食、つまり魚や野菜中心の食事がよい」と考えられていたため、この結果はそれまでの“常識”を覆すものでした。メディアでも大きく取り上げられ、その後、21世紀にかけて徐々に社会に広まっていきました。

さて、ここで少し視点を変えてみましょう。

百歳まで元気に生きている人は「肉を食べているから元気」なのでしょうか?

実はその逆で、「もともと身体が丈夫で、肉を咀嚼できる力があるからこそ、肉を食べ続けられている」のかもしれません。

高齢になると、咀嚼力や飲み込む力(嚥下機能)が衰え、摂食・嚥下障害のリスクが高まります(この点については、本コラムのバックナンバー「高齢者の摂食・嚥下障害と食事の工夫」もご参照ください)。こうしたリスクを軽視するのは危険です。

赤肉(豚肉や牛肉などの畜肉)は、効率よくたんぱく質を摂れる食品です。さらに、ビタミンB12や鉄、亜鉛など、健康維持に必要な栄養素も豊富に含まれています。その一方で、飽和脂肪酸やコレステロールも多く含まれています。赤肉を中心とした高たんぱく食は、心血管疾患や慢性腎臓病に影響することが指摘されています。加齢に伴って腎機能は低下していくため、たんぱく質の過剰摂取は腎機能をさらに悪化させるリスクがあります。

つまり、「高齢者は肉をたくさん食べたほうがよい」とは一概には言えないようです。

大切なのは、肉・魚・卵・乳製品・大豆製品など、さまざまな食品からバランスよくたんぱく質を摂取することです。そして、嚥下機能に応じて調整された「嚥下調整食」なども、健康的な食生活を支える選択肢のひとつです。

私たちの体は、日々の食べものでつくられています。

「食と健康」に関する情報はたくさんありますが、大切なのはその中から自分に合った正しい情報を選ぶことです。無理のない範囲で、おいしく、健康的な食事を続けていきたいですね。

龍谷大学農学部・農学研究科 講師 矢野真友美 

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