COLUMN
お役立ちコラム
2023.01.20|その他
高齢になると、噛んだり飲み込んだりする力が弱くなり、食べ物や飲み物が気管や肺の方へ入りやすくなることがあります。それを摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)と言い、またそのために起こる肺炎を誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と言います。
今回は誤嚥性肺炎を防いで安全にお食事を楽しんでいただく方法をご紹介します。
摂食・嚥下(えんげ)とは、食物を認識して口に取り込むことに始まり、胃に至るまでの一連の過程を指します。
普段、「食べる」という事は、ほとんど意識せずに自然にしています。しかし、これには、様々な機能が複雑に絡んでいます。通常の状態であれば、食べ物をみて「美味しそう。」と感じ、自然と唾液が出てくる等、食べ物を食べ物として認識します。そして、口の中に食べ物を取り込み、食べ物を唾液と咀嚼(そしゃく、咬むこと)し飲み込みやすい形にします。そして、食べ物はのどへ送られます。そのとき鼻への逆流を防ぐために鼻腔と口腔の間が閉じられ、気管の入口にもフタがされ、食べ物は食道へ送られます。食道では伸びたり縮んだりを繰り返す蠕動運動によって、食べ物を胃まで送ります。摂食・嚥下障害が起こると、この食べ物が胃に運ばれるまでの過程のどこかに問題が生じて食べることが上手くいかなくなってしまいます。
摂食・嚥下障害が理由で、食べ物がのどに詰まって窒息する恐れや誤嚥性肺炎を引きおこす可能性があることは、世間でも知られるようになってきました。しかし、それだけにとどまらず、食事が進まず、低栄養や脱水状態になることで、認知症、廃用症候群(筋力や心配機能低下)、褥瘡等のリスクもあがるため注意が必要です。
摂食・嚥下障害の症状としては、飲み込みにくい、飲み込めない、食べ物がつかえる、むせこむ等があります。これら以外にも、食事時間が長くなる、顎を上げながら食べる等の変化や、痰が増える、体重の減少等も見逃してはいけない症状です。 高齢者の摂食・嚥下障害の発症には、嚥下障害の原因となる脳血管障害や神経変性疾患などさまざまな原因疾患を背景とします。摂食・嚥下の業界で有名な藤島一郎先生は、著書の中で「75歳をすぎたら摂食・嚥下障害があると思え」とおっしゃっています。高齢者は嚥下に必要な筋力が低下し、嚥下する際に嚥下の反射が遅くなります。加齢に伴い唾液が少なくなったり、歯の本数が少なくなったりすることから咀嚼がしにくくなることも要因として挙げられます。また、無症候性脳梗塞、薬の副作用、認知症、不良姿勢などの影響で、容易に誤嚥する可能性があるのです。
淡海ふれあい病院に、ご入院される方には、摂食・嚥下障害の方が多くこられます。私たち言語聴覚士は、実際の食事場面や嚥下に関連する器官の状態・動きを視診・触診・聴診等を用い評価します。いずれも、外からみた観察所見によるもので、実際にどのような嚥下が行われているのか観察することはできません。そのため、必要性があれば、実際の嚥下状態を確認できる嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)の依頼を、主治医にお願いします。
嚥下内視鏡検査(VE検査)は、鼻からのどに内視鏡を挿入し、飲食物を正常に飲み込めているかを調べる検査です。淡海医療センターでは、水やトロミ水等を飲み込み、食道に流れ込んでいるか内視鏡により観察します。メリットは、被爆がなく、粘膜や唾液の状態が直視下に観察可能です。デメリットは、内視鏡挿入時の疼痛や鼻出血等のリスクがあり、また咀嚼・食塊形成や奥舌への食べ物の移送の様子等、口腔内はみることはできず、嚥下の瞬間は、画面が白くなってしまうため、誤嚥の詳細を知ることが困難なことです。
嚥下造影検査(VF)は、レントゲンをあてながら、バリウムの入った模擬食品を実際に口から食べていただいて食べる機能に異常がないか調べる検査です。メリットとしては、内視鏡の違和感がないこと、誤嚥を観察しやすいことです。誤嚥は咽頭で生じますが、潮の原因は、口腔にあることも多いため、食べる機能の異常と原因を探すのに優れています。また、姿勢や食べ方などの代償手法の効果を見つけることもできます。デメリットとしては、被爆があること、検査時間が30~40分程度と長い事、バリウムを誤嚥する可能性があることです。
摂食・嚥下を考える上で、必要な情報は、嚥下機能だけでなく、病前の身体機能、日常生活能力、既往、今回の疾患、覚醒レベル、全身状態、認知機能、身体機能、咳嗽の強さ等、多岐にわたります。言語聴覚士は、これらの要素を総合して、その方に適した食事姿勢、形態・量、食べ方を検討しています。
次の記事では、安全にお食事を楽しんでいただくために、食事の姿勢や食べ方のポイントをご紹介します。是非ご覧ください。
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