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災害時に健康を守るために ~薬と慢性疾患の備え~

2025.06.20|災害相談

 大きな災害が相次ぐ日本列島。淡海医療センターはDMAT(災害派遣医療チーム)に登録しており、災害が起きれば即座に対応し、地域を支えることが求められています。そんな医療の最前線から見えてきたのは、「薬がない」「薬が使えない」ことが、いかに健康を脅かすかという現実です。

 災害は、ただ建物を壊すだけでなく、人の体調、心の健康、そして日常的な治療の継続にも大きな影響を与えます。

 今回は、皆さんの命と健康を守るために、今すぐできる災害への“薬の備え”について、わかりやすくお話しします。

1.なぜ災害時に薬が問題になるのか?

【ポイント】

・薬が手に入らなくなる

・食事や水分の摂取が不規則になる

・医療機関や薬局に行けなくなる

 災害時、まず問題になるのは「薬の供給ストップ」です。道路の寸断や物流の混乱で、薬が届かなくなることが起こります。特に地方では、最寄りの薬局までの移動が困難になり、数日間薬を飲めない人も出てきます。

 また、食事や水分の摂取が不規則になり、ふだん通りの薬を飲むことで逆に体調を崩してしまうリスクもあります。糖尿病の薬をいつも通り飲んだのに、食事が摂れず「低血糖」になる、利尿薬を飲んだのに水分が足りず「脱水」になる。そんな事態が実際に多く報告されています。

 そして、被災後は病院や薬局もダメージを受け、診察や調剤がすぐに再開できないことがあります。こうした「いつもの医療」が止まる中、自分で自分の健康を守る準備が、これまで以上に大切になっています。

2.慢性疾患の方は「災害シックデイ」を意識しよう

【ポイント】

・糖尿病、高血圧、腎臓病、心不全などは災害で悪化しやすい

・「災害シックデイ」とは災害時に病状が不安定になる状態

・薬を「続けるべきか」「休むべきか」判断が重要

 「災害シックデイ」とは、通常の“病気の日(シックデイ)”とは異なり、災害というストレスや生活環境の変化によって、慢性疾患の管理がうまくいかなくなる状態を指します。例えば、阪神淡路大震災や東日本大震災では、糖尿病患者さんのHbA1c(血糖の指標)が震災数か月後に急上昇したというデータがあります。

 このような背景から、慢性疾患をお持ちの方は、災害時に薬を“どう管理するか”をあらかじめ確認しておくことが重要です。たとえば、「SGLT2阻害薬」という糖尿病の薬は、脱水が起こりやすいため災害時には休薬が望ましいとされています。一方で、インスリンは勝手に中止すると重篤な状態になりかねません。

 薬によって「続けるべきか」「休むべきか」は異なります。自分の薬がどうなのか、ふだんから主治医や薬剤師に確認しておくことをおすすめします。

3.いざという時の「薬の備え」とは?

【ポイント】

・余裕を持って受診しておきましょう

・お薬手帳と薬のリストをスマホで撮影しておく

・糖尿病・高血圧・喘息などは災害時対応も確認する

 災害時に最も頼れるのは、自分自身の備えです。服用薬がギリギリでなくなるような受診では、いざという時に命取りになることもあります。まず、日頃から少なくとも3日分、できれば1週間分の薬を確保できるように余裕を持って受診しておきましょう。

 次に大事なのが「お薬手帳」です。紙の手帳だけでなく、スマホで中身を撮影して保存しておくと、紛失しても安心です。最近では電子お薬手帳も普及していますが、高齢の方には操作が難しい場合もあるため、写真に残すのが簡単で効果的です。

 また、糖尿病や心臓病、喘息などの持病がある方は、「この薬はいつまで飲み続けるべきか?」「食事が摂れなければどうする?」といった“災害時のルール”を、薬剤師に相談してまとめておくと安心です。

4.薬局や医療体制も災害に備えています

【ポイント】

・多くの薬局がBCP*(事業継続計画)を策定

・災害時には「例外的な調剤」も可能

・地域の薬剤師会やDMATが支援体制を構築

* BCP(Business Continuity Plan:事業管理計画)とは、

自然災害やテロ攻撃等の緊急事態が起きた際に、事業継続のための方法や手段を取りまとめた計画のことです。緊急事態での損害を最小限に抑え、重要な業務を継続し、事業の早期復旧を図ります。介護保険料の請求を行う薬局にはBCP作成の義務があります。

 能登半島地震では、道路の損壊や雪の影響でモバイルファーマシー(移動薬局)の活用が難航しましたが、地元の薬局がいち早く営業を再開し、被災者の命綱となり、薬剤師会も支援チームを組み、避難所や仮設住宅での薬の管理を行いました。

 また、災害時には「薬機法第49条」という特例により、医師の診察がなくても、お薬手帳などで確認できれば処方薬を渡すことが認められています。これは多くの薬局が知っており、実際に活用されました。

 こうした背景には、医療従事者の「準備」があります。皆さんも、医療側だけでなく、「市民としての備え」をしておくことで、支援が届くまでの数日間を安全に乗り切ることができます。

おわりに ~命をつなぐ薬の備え~

 災害はいつ起きるか分かりません。しかし、薬の備えは今日からでもできます。

・余裕を持った受診、服用薬の受け取り

・お薬手帳や薬の写真の携帯

・災害時の服薬ルールの確認

 これらがあなたの命と健康を守る「小さな防災」です。日常の中に少しだけ“非常時”を意識することで、もしもの時の不安を減らすことができます。

皆さんが安心して生活を続けられるよう、私たち医療者も災害に備えています。

ぜひ、皆さんもご自身の備えを見直してみてください。

淡海医療センター

〒525-8585 滋賀県草津市矢橋町1660
TEL 077-563-8866(代)
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