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ケロイドと季節・血圧の関係性について

2025.05.30|ケロイド季節血圧

ケロイドとは

ケロイドは、皮膚が外傷や手術などによって損傷を受けた際、通常の瘢痕形成を超えて過剰な線維化が生じることで形成される病的瘢痕です。通常の瘢痕とは異なり、時間の経過とともに拡大し、強い疼痛や掻痒感、発赤を伴うことが多く、見た目だけでなく生活の質にも大きな影響を与える厄介な疾患です。形成外科や皮膚科の外来でも、しばしば治療に難渋する病態のひとつとされています。

ケロイドの治療法

ケロイドの治療法としては、ステロイドの局所注射シリコンジェルシートの貼付外科的切除術後放射線療法レーザー治療(主に色素レーザー)などが挙げられます。しかしながら、いずれの治療法も単独で十分な効果を得られるとは限らず、再発を防ぐためには複数の治療を組み合わせることが多く、長期的な管理が必要になります。

ケロイドと季節・血圧の関係性

近年では、ケロイドの症状が季節や血圧の変動といった全身的・環境的要因に影響されることが注目されています。ある臨床観察研究では、ケロイド患者を対象に季節ごとの自覚症状の変化と血圧との関連を調査したところ、春と秋に症状の悪化が有意に多く見られたと報告されています。具体的には、春の終わりから梅雨入りの時期、また秋の乾燥期に、疼痛や掻痒感が増強する傾向が確認されており、これは気温や湿度の変化に皮膚が影響を受けている可能性を示唆しています。

また、血圧との関連も無視できません。収縮期血圧が140mmHgを超える高血圧の患者では、発赤や腫脹の程度が顕著となり、ケロイドの炎症反応が増強しているように見受けられます。さらに、1日の中での血圧の急激な変動や心理的ストレスの増減も、ケロイドの症状悪化と関連している例が複数報告されています。

たとえば、ある患者は職場で強いストレスを抱えていた時期に症状の増悪が顕著でしたが、転職後には明らかに症状が軽減しました。また、子どもの受験を控えた時期に突然症状が悪化したという保護者のエピソードや、天候の急変や寒暖差の激しい日に限って掻痒感が強くなるという報告も多数あります。

これらの現象は、自律神経系の変動、局所および全身の血流動態の変化、さらには皮膚バリア機能の低下といった複数の要素が相互に関与していると考えられます。特に季節の変わり目は、気温や湿度の急激な変化が自律神経のバランスを崩しやすく、その結果として炎症反応が亢進し、線維芽細胞の活性が増すことでケロイドの症状が強く現れる可能性があります。

ケロイドの症状は単なる皮膚の問題ではなく、環境や心理的要因とも密接に関連する全人的な疾患とも言えます。春や秋の季節的変化、高血圧やストレスとの関連性を考慮しながら、患者一人ひとりの生活背景に応じた治療戦略と環境調整を行うことが、より良い症状のコントロールと生活の質の向上につながると考えられます。

昭和医科大学藤が丘病院形成外科
教授(副院長) 門松香一

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